2025-04-18から1日間の記事一覧
地方の田舎町、上戸(かみど)町で暮らす岩口久司は、どこにでもいるようなお堅い性格の通勤サラリーマンである。岩口がお堅いのには一つの理由があり、勤めがお堅いお役所という点が加味されていた。今年で八才になる小学一年生の長男、悠馬(ゆうま)は真逆の…
井郷千一郎は田所進の斜め向かいの病室ベッドで酸素マスクを装着し、眠っていた。井郷に身寄りはなかった。幸い病状は回復の兆しを見せ、医師は「峠は越しました…」と女性介護士の新谷へ静かに告げた。井郷はウトウトと浅い眠りの中で夢を見ていた。そんな井…
三塚浩次は工事現場にいた。「おい、終わりだっ!」 現場監督が浩次の後方から声をかけた。浩次は手に持つ重機のドリルを置いた。ヘルメットを脱ぐと、ザラッとした砂塵の感触がした。浩次は解放されたように首をぐるりと回した。それまでの凛と張りつめた緊…
田所進は病室のベッドで眠っていた。ここ数日、午後の時間帯は睡魔に襲われることが多かった。消灯後、看護師達に怒られながら読み続けた本のせいに違いなかった。ふと目覚めると、窓際の病床から街灯りがチラホラ見えた。外はもう夕闇が迫っていた。どこか…
二浪の尾山博は家賃が三万八千円の安アパートでカップ麺を啜っていた。予備校の学費は、半ば本業として働くメンテナンス会社のパートの稼ぎだった。カップ麺を啜り終わったとき、外はもうすっかり暗かった。片隅に置かれた目覚ましを見ると、すでに六時半ば…
忘れ去られた公園に朽ちかけたベンチがあった。瀬山里沙は、その冷え切ったベンチへ腰を下ろした。凍てつくほどではなかったが、外気の冷えは手先を悴(かじか)ませた。どこからか、微(かす)かにクリスマスソングが聞こえた。里沙は、ダッフルコートのポ…