水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

2025-04-01から1ヶ月間の記事一覧

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -12-

「他には?」「他ですか…仏山さん宅だけだったと思いますが…。それで?」「はあ、私も氏子にならないといけないんでしょうね」「ははは…どうしてもっ! という決まりではありません。ご意思があればなって頂く・・くらいのお気持ちでよろしいかと思いますが……

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -11-

「何ですか? 君が相談ごととは…」 相変わらず砂場に対しての敬語対話は続いていた。書類の数値の羅列が少し理解できるようになったとはいえ、まだまだ砂場の手を借りねばならない事態が想定されたからである。「実は…課長の近くに引っ越しする予定なんです…

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -10-

孰(いず)れにしろ、一件が処理されていれば、岩口としては御の字である。それにしても、あの数値の羅列は…と、砂場が差し出した書類がふたたび脳裏に浮かんだ岩口は、ゾォ~~っと身震いし、なんとか忘れようと首を二度、三度と激しく回した。今回はなんとか…

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -9-

リビングのソファに腰を下ろし、岩口が目を閉じて酔いを醒ましていると、美登里が入ってきた。「はい、お水…」 岩口が朧げに瞼を開けると、目の前にはトレイに水コップを乗せて持つ美登里が立っていた。「ああ、有難う…」 喉が渇いていたこともあり、岩口は…

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -8-

酒を岩口に勧めた切川だったが、返杯されて受けない訳にはいかないから、井口が差し出した杯(さかずき)を素直に受け取った。この構図は岩口[石]が切川[鋏]に勝った三竦(さんすく)みが具体的に現れた瞬間となった。切川はその杯を飲み干すと、杯洗の水で軽く…

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -7-

後宴祭の巡行は形ばかりで、どちらかといえば、人間様の楽しみごとが神様方より勝っている昨今の風潮である。骨太神社もご多分に漏れなかった。時代の流れといえばそれまでだが、第二次大戦後の物の少なかった時代を経て、物の豊かな現代へと変貌するうちに…

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -6-

骨太神社の御祭神は天之常立神(あめのとこたちのかみ)を主祭神とし、伊勢神宮、春日大社からそれぞれ分祀(ぶんし)された天照大神(あまてらすおおみかみ)、比売神(ひめのかみ)を勧請(かんじょう)して奉った三柱である。例大祭は、ここ五十年ばかり神輿の担ぎ…

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -5-

春の晴天の朝である。雅楽が流れる中、氏子達によって骨太神社の神輿(みこし)渡御(とぎょ)が行われ、神社の鳥居前を進んでいく。その先頭を歩むのは神主装束に身を窶(やつ)した緊張気味の岩口である。岩口とすれば、何事もなく無事に祭礼の神事か終われば、…

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -4-

岩口家の隣に住む切川クリニックの切川修一は、岩口とほぼ同年代の医者である。数年前、都会の大病院を勇退し、父が開業する切川クリニックに引っ越して来たのだった。父の修(おさむ)は医者の不養生が祟り、去年、この世からあの世へ旅立たなくてもいいのに…

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -3-

観光物産課に勤務する岩口には、もう一つ、別の顔がある。いつの頃からか? は岩口自身も分からなかったが、先祖から世襲されている神職という社会的な仕事があった。早い話、宮司である。その骨太(ほねぶと)神社は悠馬が通う上戸小学校のすぐ近くにあり、岩…

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -2-

悠馬が通う上戸(かみど)小学校は、自宅からおおよそ十分ほどの距離で、悠馬にすれば、すごくラッキーな位置にあった。そう悠馬が思うのは、彼のチャッカリした性格によるものだ。ところが、妹の智花の幼稚園は二十分以上かかり、美登里の車の送迎が日々、欠…

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -1-

地方の田舎町、上戸(かみど)町で暮らす岩口久司は、どこにでもいるようなお堅い性格の通勤サラリーマンである。岩口がお堅いのには一つの理由があり、勤めがお堅いお役所という点が加味されていた。今年で八才になる小学一年生の長男、悠馬(ゆうま)は真逆の…

微かにクリスマスソングが聞こえる [5]

井郷千一郎は田所進の斜め向かいの病室ベッドで酸素マスクを装着し、眠っていた。井郷に身寄りはなかった。幸い病状は回復の兆しを見せ、医師は「峠は越しました…」と女性介護士の新谷へ静かに告げた。井郷はウトウトと浅い眠りの中で夢を見ていた。そんな井…

微かにクリスマスソングが聞こえる [4]

三塚浩次は工事現場にいた。「おい、終わりだっ!」 現場監督が浩次の後方から声をかけた。浩次は手に持つ重機のドリルを置いた。ヘルメットを脱ぐと、ザラッとした砂塵の感触がした。浩次は解放されたように首をぐるりと回した。それまでの凛と張りつめた緊…

微かにクリスマスソングが聞こえる[3] 

田所進は病室のベッドで眠っていた。ここ数日、午後の時間帯は睡魔に襲われることが多かった。消灯後、看護師達に怒られながら読み続けた本のせいに違いなかった。ふと目覚めると、窓際の病床から街灯りがチラホラ見えた。外はもう夕闇が迫っていた。どこか…

微かにクリスマスソングが聞こえる [2]

二浪の尾山博は家賃が三万八千円の安アパートでカップ麺を啜っていた。予備校の学費は、半ば本業として働くメンテナンス会社のパートの稼ぎだった。カップ麺を啜り終わったとき、外はもうすっかり暗かった。片隅に置かれた目覚ましを見ると、すでに六時半ば…

微かにクリスマスソングが聞こえる [1]

忘れ去られた公園に朽ちかけたベンチがあった。瀬山里沙は、その冷え切ったベンチへ腰を下ろした。凍てつくほどではなかったが、外気の冷えは手先を悴(かじか)ませた。どこからか、微(かす)かにクリスマスソングが聞こえた。里沙は、ダッフルコートのポ…