「ああ、そうして戴ければ、それで結構です…」
「では、次を…。砥石(といし)君、そこのお札を、戸数分、ひと纏(まと)めにして木箱へ…」
「はい…」
砥石は切川クリニックで働く男子医療の若手スタッフである。切川はこまめに働く砥石を何かにつけて重宝し、クリニック以外でも使用していた。切川の鋏[メス]は砥石によってスリスリ・・と磨かれ、切れ味を維持していたのである。^^
そんな切川を遠目に見ながら、岩口は厳かな所作で年末の神事の準備に余念がなかった。各戸に配布されるお札は、氏神である骨太(ほねぶと)神社のお札、分祀されてお祀りする天照皇大神宮のお札、比売神をお祀りする春日大社のお札、天之常立神をお祀りする出雲大社のお札の四枚のお札だった。
骨太神社の上戸町に奉仕する氏子の戸数は三十八戸で、それだけの戸数を年末のお札納めに訪(おとな)うのは結構な手間だったから、岩口は三日に分けて訪うことにしていた。氏子総代の切川を伴って、である。その切川は砥石にお札箱を持たせて伴ったから、三人連れで各戸を訪うのが常だった。
師走に入ると、岩口は過労になるほど多忙となる。それでなくとも、いつもながら自信ありげに応諾する砂場の言葉に、岩口は少し疲れが和らぐ思いがした。岩が砕けて石に、石が砕けると砂になる訳だから、細部のことは砂の得意とするところなのである。^^
続