水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -108-

 祭礼は毎年のように滞りなく行われていった。よ~く考えれば、リハーサル無しのぶっつけ本番だから、滞れば偉いことになる。^^
 ここは巡行の行列が通る表参道である。表参道がある訳だから当然、裏参道もあるのだが、裏参道は余程のことがない限り人の通行がないうら錆びた陰気な参道だった。木立ちが鬱蒼(うっそう)と茂る参道で、表参道に昔から等間隔に植えられた大樹木の整然とした参道とは趣(おもてむき)を異にしていた。神輿(みこし)や太鼓、鉦が通る参道だからといえばそれまでだが、表参道と裏参道には大きな景観の差があった。
「おお! 入ったようですな…」
 仮屋番の宮居が,遠目に鳥居を潜ってきた若衆会の若者達を見ながら小声で言った。
「そのようです。では、私はこれで…」
 白足袋に宮司姿の岩口は座布団からゆっくりと立つと、雪駄を履いて神社境内の通路から自宅へと、ひとまず引き上げた。宮司はこのあと、神輿渡御が行われるまでのしばらくの間、英気を養うのである。どのように英気を養うのか? は個人情報保護の厳しい昨今だから差し控えたい。^^
 午の上刻[午前十一時]が神輿渡御が始まる時刻に古くから定まっていた。巡行する列の配列も定まっていて、骨太(ほねぶと)神社の幟旗(のぼりばた)二本を先頭に、榊に金属の鏡が付いた神木、剣先、穀箱を担ぐ白神主姿の二名、小太鼓を担ぐ二名、神輿、etc.と続いて巡行する慣例になっていた。
「ドウノォ(ドウタラァ)~~コウノォ(コウタラァ)~~」「ドウノォ(ドウタラァ)~~コウノォ(コウタラァ)~~」
 岩口も自宅[神社境内の中]で英気を養い、幣殿(へいでん)で巡行する祭礼用の祝詞を上げたあと巡行の列に加わった。このときには雇われた神輿を担ぐアルバイト達も神社内に集合していた。
「では皆様方、宜しくお願い致します」
 神輿の棒割り[担ぎ手の端棒(はなぼう)、中棒(なかぼう)、丸棒(まるぼう)という三本の棒が神輿の前後に合わせて六本付いている]を読み上げたあと、氏子総代が厳かな余所行きの声で全員に告げた。古くは若衆会のトップ役員が行っていたのだが、アルバイトを雇うようになってからは氏子総代が指揮するように祭礼の方法が変化していた。
『日本の古くからの伝統文化が次第に姿を変えていくのは、取りも直さず、神様がチャキチャキと鋏で切られているからだ…」
 岩口はいつの間にかスッポリと神[紙]に包まれ、飴玉が口の中で溶かされるように感化された感が否めなかった。