水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

代役アンドロイド -126-

それにしても、16階の106号室である。この1と6は藤崎自身の拘(こだわ)りなのか、あるいは偶然が単に重なった結果なのか…と、持参するたびに保は思えていた。
 居室前のチャイムボタンを押して呼び出すと、しばらくしてドアが開いた。事情があって今は一人暮らしだと保は以前、藤崎から聞かされていた。
「はい…。岸田さんですか。なんかご用ね?」
 藤崎は、いつものボケ~っとした顔で訊(たず)ねた。
「朝早くから、すみません。実は、これだけは言っとかないと、と思いまして…」
「はあ・・どがんことでしょうか?」
 出身は分からないが、藤崎の言葉に地方訛(なま)りが混ざっていた。
「居座ってると言ってました妹のことなんですが…」
「えっ? ああ…。そう、おっしゃっておられたばい。どがんかされましたか?」
「いや、そうじゃないんです。言いにくいんですが…。実は、妹じゃないんです」
「えっ?!」
 一瞬、藤崎からニヤけた笑みが零(こぼ)れた。恐らくは怪物長左衛門と同じように、若い女が…みたいな錯覚をしたんだろうと、保は刹那、思った。
「いやいやいや、そうじゃないんです。実は従兄妹(いとこ)なんです」
「はあ? …妹さんじゃなく、お従兄妹さんなんね?」
「ええ、そうなんです。どうも、すみません」
「そんな…。謝(あやま)っていただくようなことじゃなかですから…。そうでしたか、お従兄妹さんですか」
 藤崎のその目は、まだニヤけていて、半信半疑で窺(うかが)うように保を見ている。