「しかし、早かったぜ」
後藤が、またぶり返した。このアフロのフケ男め! と保は怒れた。いらんことを言う奴だっ! と益々、怒れる。保は冷静になろうと、目を瞑(つむ)った。保から言葉がないので後藤も黙った。車内はふたたび静穏になるはずだったが鼾(いびき)が急に聞こえ出した。山盛教授すでに爆睡していた。鼾による車内の雑音は益々、大きくなる。三人は早く研究所に着かないか…と、同じことを考えていた。保は目を閉じ、後藤はうつむき加減になっていた。そのとき、沙耶が車の横の歩道を通過して抜き去り、どんどん距離を離していった。その姿を見たのは運転する但馬ただ一人だった。
「ああっ!!」
但馬の絶叫に、全員が我に帰った。保は目を開け、後藤は首を上げ、教授は目覚めて瞼(まぶた)を擦(こす)る。
「ど、どうしたんだ、但馬君…」
「教授、前を…」
全員がフロントガラスに映る景観に目を凝らした。前方には走行で流れる普通の光景が広がっている。
「なんだ…驚くじゃないか」
沙耶はすでに車の視界からは見えないところまで遠ざかっていた。
「いえ、今、確かに・・私の目に岸田君の従兄妹(いとこ)が…」
「んっな、馬鹿なっ!」
保以外の三人が異口同音にそう発した。