「まあ、そんなことはいいとして、さあ! 鳳凰の間へ」
駒井に促(うなが)され、里山はロビー席を立った。里山が通された鳳凰の間は、さすがに東都ホテルの一を誇(ほこ)るだけあって、豪華絢爛(ごうかけんらん)そのものだった。
「あっ! これは里山さん」
声を掛けたりは、いつぞやテレ京のロビーで会った制作部長の中宮だった。
「はあ、これは、どうも…」
「おお、小次郎君! 元気かっ?」
中宮は里山が提(さ)げたキャリーボックスに囁(ささや)きかけた。
『このようなところから、失礼しております…』
小次郎は挨拶に礼を尽くした。
「おお、言うな! 小次郎君」
中宮は小笑いした。
「おい、こんなところからはないだろ。いや、どうも…」
里山は逆に恐縮した。鳳凰の間には、まだ数人の招待された客と報道関係者しかいなかった。それでも、キャリーボックスを提げた里山に気づくと注目して会釈した。一面識もない者達だったが、里山も軽く頭を下げた。
なんだ、待ちかよ…と里山は思えた。これなら、ロビーではなく、ホテル内のひっそりとした場所に身を潜(ひそ)め、8時を少し回った頃に遅れて華々しく現れる・・という構図の方がよかったような気がした。今のままでは、客がこない悲しきピエロ状態なのだ。パーティーの主役が他の者を待っている・・というのは絵にならない。