水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

幽霊パッション 第一章 第六十八回

                

 日曜だから、まあ、勝手気儘(きまま)である。欠伸のあと、いつものようにお決まりのワンパターンで朝食の運びとなる。サラダ菜を生憎(あいにく)、切らせていて、ハムエッグ、コーヒー、トーストのみの、なんともお粗末な朝食になってしまったことを単純に上山は悔(くや)んだ。三年前に死に別れた妻の和枝とは恋愛結婚で、蜜月の頃の想いが、ふと、上山の脳裡を駆け巡る。あの頃は、座って新聞を広げているだけで、食膳には豪華な料理が出た。しかも、ほどよく美味かったから、上山は毎日の食事が楽しみだった。それが、今はどうだ! と、思えるのである。その時、どういう訳か、上山の胸中に、ある想いが浮かんだ。余りにも唐突なこの発想は、幽霊平林の人となり、いや、霊となりを考えれば、果して上手くいくかどうか…と懸念される閃(ひらめ)きだった。というのは、上山の想いは、妻の和枝を霊界で幽霊平林に捜(さが)してもらおう…という手前味噌で稀有な発想だったのだ。まあ、いい発想が浮かんだとはいえ、家で寛(くつろ)いでいる今では、どうも気が乗らない。というのは、首をグルリと一回転すれば確かに幽霊平林は現れるのだが、それは上山にとって寛ぎの空間を覗(のぞ)かれているようで、どうも気が乗らないという訳である。幽霊平林が我が物顔で家のあちこちを徘徊(はいかい)するのは、どうも気分がよくない…と上山には思えた。妻の和枝が先立ってからというもの、家は上山にとって神聖な空間になっていた。だから、家にいるうちは幽霊平林を呼ばないでおこう…と、上山の心が命じたのである。しかし、ある意味、これには意識することが至上命題となる。うっかり、首をグルリと回せは、即、現れる幽霊平林なのだ。このことだけは充分、留意しなければならない…と上山は肝(きも)に命じた。とはいえ、日曜だから、そう杓子定規に絶えず心を研ぎ澄ましている、というのも如何なものか…と思えた。だから上山は、意識はするが意識しないように努めた。幸い、この日は何事もなく夕暮れを迎え、上山は酒場へ飲みに出た。