2025-12-26から1日間の記事一覧
着がえることも忘れ、里山はふたたび玄関から外へと飛び出した。背広上下にサンダル、手には缶詰である。その格好を他人が見れば、どこから見ても怪(おか)しく思えた。だが、外はすでに暗闇で、この付近の人通りはほとんどなかった。しかも公園は、里山の…
「あら? どうしたの?」「いや、なに…。ほれ、アレだ」「おかしい人ね。ナニ、ホレ、アレじゃ分からないわよ」 煙(けむ)い顔で沙希代は里山を攻(せ)めた。「朝、出がけに言ってたろ。ほれ、隣の公園の猫だよ」「まだ、いたの? その猫」「お前、猫、嫌…
『よろしくお願いします! それじゃ、早くお帰り下さい』「腹、減ってないの?」『えっ? そりゃ、もちろん減ってますよ。でも、じっと我慢の子です。合格するまでは…』「ははは…合格か」『笑いごとじゃないですよご主人、僕には…』「ああ、そうだね…」『小…
駅を降りると、里山の足は自然と早まった。そして・・ついに、家が眼前に迫ったのである。必然的にそれは、公園が迫っていることを意味した。 公園にさしかかったとき、里山はなぜか少し緊張していた。里山に気づいたのか、公園の木々の茂みに隠れていた子猫…
退社時間となり、里山は早々に席を立った。課員達が退社するのとほぼ同時で、課員達はもの珍しそうに里山の姿をチラ見した。いつもなら、課員達がすべて退社してから席を立つ里山だったからである。「お早いですね…」 嫌味ではないが、道坂が微妙な顔で訊(…
これは現実ではなく、俺は夢を見ているんだ…と、里山は今の事態が信じられなかった。だが、子猫にしては妙に、しっかりとした物言いをする…と里山は感じた。『夢でもなんでもないんですよ、ええ…』 里山は心中を見透かされてるのか…と思え、ギクリ! としな…
視界には公園と子猫が餌を食べている姿が映るばかりで、辺りに人の気配などは一切なかった。それも当然か…と、里山は気のせいに思え、ふたたび半回転すると歩き始めた。『私ですよ、ご主人!』 今度はやや大きめの声が里山の背中から聞こえた。里山は慌(あ…
里山は公園前をゆったり通り過ぎようとした。というのも、子猫が現れることが予見できたからだ。数日前・・といっても、もう十日ほど経っていた。里山が公園の通路を三分の二ほど横切ったとき、やはり子猫はヒョコヒョコと幼稚に歩いて近づいてきた。公園の…
里山は最近、妻の沙希代の攻勢に、あんぐりしていた。若い頃はあんなじゃなかった…と、懐かしい新婚時代の昔を脳裡(のうり)に浮かべた。そういや、あいつ、動物にも優(やさ)しかったはずだ…と、今の豹変(ひょうへん)ぶりが里山には不思議でならなかっ…
「そんなこと言ったって、哀(あわ)れじゃないか!」 里山 武蔵(たけぞう)は朝の出がけから妻の沙希代と言い争っていた。「そのうち、いなくなりますよ!」「そうは言うがな。毎日、前を横切って通勤する俺の身にもなってみろ! ひもじそうにニャ~ニャ~…