水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

里山家横の公園にいた捨て猫 <安住編> -2-

 里山は最近、妻の沙希代の攻勢に、あんぐりしていた。若い頃はあんなじゃなかった…と、懐かしい新婚時代の昔を脳裡(のうり)に浮かべた。そういや、あいつ、動物にも優(やさ)しかったはずだ…と、今の豹変(ひょうへん)ぶりが里山には不思議でならなかった。
「会社、遅刻するわよ!」
 味もそっけもない声が背後から響き、里山はギクッ! とした。
「ああ…」
 腕を見ると、いつも出る時間より数分、遅かった。里山は新聞を畳(たた)むと、急いでテーブル椅子から立った。出がけに鞄(かばん)を玄関で手渡すのは、結婚当初より変わっていない数少ない妻の日課である。そしてこの日も鞄を手渡された里山は、勢いよく玄関戸を開けた。
「今日は、少し遅くなる…」
 里山は少し偉(えら)ぶって外へと出た。玄関戸を閉めたとき、ふと里山の心にある思いが湧(わ)いた。
━ 今朝も待ってるだろうな… ━
 そうなのだ。いつの間にか里山は公園の子猫に餌をやっていたのだ。餌は仕事先の近くで買ったドライ・フードである。妻に見つかると具合が悪いから、餌袋は公園の一角にある掃除用具入れ場の隅(すみ)に収納していた。上手い具合に、掃除は滅多にされず、その場所は忘れられたままになっていた。