状況によっては服も買ってやろうと、それだけの余裕の金は持ってマンションを出ていた。しかし、予定や計画が簡単に狂ってしまうことを保は思い知らされた。
『あっ! あそこ、いいお店があるわ。保、入らない!』
地下鉄を出る階段を上がり切ったとき、最初に見えた景観が悪かった。それは保にとってであり、沙耶にとっては絶好のターゲットが見えたのである。その店はブティックだった。恐らくはショーウインドウに見えた衣装が気にいったのだろう…と保には思えた。もちろん食は疎遠の沙耶が飲食店や菓子、食品、飲料などの食に関係する店を選ぶはずもないのだが、計画倒れとなったのは、沙耶の感受性プログラムを余りにも精巧に組み過ぎたからだ…と保には思えた。とはいえ、今さらこの場ではどうすることも出来ない。っていうか、もう少し郊外試験を続けないと、沙耶が社会生活に適合できるかを判断するのは時期尚早なのだ。
「ああ、いいよ…」
保は軽く肯定してOKを出した。その店の名はモンタナと表示されていた。沙耶が先にガラス戸を開けて入り、保はマネージャーのように後ろへ従った。
「いらっしゃいませ…。あらっ! それなんか、お似合いでございますよ」
沙耶と同年齢の若い美女が、あちらこちらと店内を見歩く沙耶に急接近し、声をかけた。客あしらいが実に上手い。