水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

コメディー連載小説 三竦(さんすく)みが崩れた岩口家の危機打開策 -190-

 枉神(まがかみ)は、ふたたび黒原をその先兵として、上戸町へ向かわせようとしていたのである。その、とある場所とは駅だった。黒原が暮らす位置から岩口家までは、列車でおよそ三時間という距離があった。その上戸町へ向かわせるとすれば、列車に頼る他はなかった。だが、天界の天常立(あめのとこたちの)神は、つぶさに枉神の動きをお見通しだった。人には見えず、分からない神様の動きだが、最高峰に位置する神には手に取るようにお分かりだった。
 駅の構内である。タクシーで構内へ辿り着いた黒原は、即座に券売所へと突き進んだ。
「上戸、一枚…」
 黒原は駅員に言われた切符代を支払おうとした。
「あっ、お客さん! これからですと、特急がないですよ…」
 すでにこのとき、神対枉神のバトルがすでに始まっていたのである。天常立神は黒原の駅へ向かおうとする発想を遅らせておられた。人を遠隔操作する技術は神様の方が枉神より格段に上だった。^^
 駅員にそう言われれば仕方がない。黒原はチェ! と軽く舌打ちすると、その日の移動を断念し、駅を出た。次の日まで、岩口家と骨太(ほねぶと)神社の危機は延ばされたのである。
『ふふふ…天常立神様、さがですわ…』『ほんに…』
 見事な天常立神の神業(かみわざ)に、二柱(ふたはしら)の女神が賞賛された。
『いや、なに…。まだ手始めです』
 天常立神は謙遜し、少し恥ずかしげにお哂(わら)いになった。