水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

里山家横の公園にいた捨て猫<立国編> -26-

『僕が通訳しましょう。先生は、[いや、こちらこそ。私が俳猫の股旅です]と申されております』
「俳猫ですか?」

 里山は思わず笑いそうになったが、グッ! と我慢した。そして、手に持参した夕飯用の缶詰3缶のプルトップを引いて缶の蓋(ふた)を開け、股旅(またたび)の前へと静かに置いた。その途端、股旅の顔色が変化した。風雅を重んじる俳猫とはいえ、腹が減っては・・である。股旅は缶詰に頭を飛び込ませるような勢いで缶詰の中身を食べ始めた。と言うより、食い始めたと表現した方がよいような荒っぽさで、風雅な俳句の道に生きる老先生ぶりも消え去り、ただの野良に変身したのだった。里山と小次郎は呆気(あっけ)にとられ、その変身した股旅の食いっぷりを、ただ茫然(ぼうぜん)と見つめるだけだった。
 しばらくして3缶を食べ終えた股旅は、元の風雅に生きる俳猫へと落ち着きの姿をとり戻(もど)した。
『有難うございました。お恥ずかしいところをお見せいたしましたな…』
 股旅は口の周(まわ)りを舌でぺロつかせながら、猫語で言った。もちろん、小次郎の耳にはそう聞こえたのであり、里山の耳にはニャ~ニャ~~と聞こえていた。
『先生が、[有難うございました]と申されております』
「ああ、そう…。それはよかった。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
 里山は屈(かが)むと、猫目線に合わせ、股旅を見た。
『ニャ?』
『[なんですかな?]と申されておられます』
 小次郎は里山と股旅の通訳に徹した。