水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

幽霊パッション 第一章 第八 十三回

          

 上山は、とにかく誰かを呼ぼうと携帯に手をやった。しかし、開けて誰彼なしにダイヤルしても、まったく応答がない。というより、接続不能メッセージも流れず、接続自体がなされているのかどうかも分からなかった。上山は連絡を諦(あきら)めて、携帯を背広のポケットへ戻した。その時、幽霊平林の顔が、ふと上山の脳裡を過(よぎ)った。これだ! と上山は刹那、思った。そして、徐(おもむろ)に頭をグルリと一回転した。例の呼び出す合図である。
『はい! お呼びになりました? いやあ、もうそろそろかと思ってたんですよ』
「そ、そんなこたぁ~、ど、どうだっていいんだ! おい君! これは、どういうことなんだ? ちゃんと説明しろ!」
 上山にしては珍しく興奮した口調で云い放っていた。
『まあまあ…。そんな大きな声を出さずに! 今、ちゃんと云いますから』
 幽霊平林は不満顔で上山に云った。
「分かった…。いや、こりゃ、私でなくとも大声を出すぞ」
 上山は人の姿が消えた辺りの光景を指さして、そう云った。
『はい、それは、そうです…。しかし課長、安心なさって下さい。人々は、ちゃんといるんですよ。ただ、課長の目には見えないだけなんです』
「分からん! とういうことだ、君」
『ですから今、少しずつ、ご説明しますよ』
 幽霊平林は、ふたたび上山を宥(なだ)めた。
「は、早く云ってくれ! どういうことなんだ、えっ!?」
『まあまあ…。そう迫られては、話し辛(づら)いですから』
「…、いや、これは私が悪かった…」
『人は、いつもどおりいるんですよ。ただ、課長の目には見えない…。ただ、それだけのことです』