水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

幽霊パッション 第二章 第十六回

                

『それじゃ、僕は興奮を抑えてから入ります。でないと、青火を教授に見られちゃ拙(まず)いでしょ?』
「ああ…、今のところは、な。いや、そうじゃないかも分からん。君の青火が灯っていた方が教授を説得しやすいかも知れんからな」
『はあ…』
 幽霊平林は俄かに大人しくなった。階下は上よりなお一層、暗い。薄闇どころか、視界がまったく途絶えた暗黒の世界だった。灯火設備は天井にあることはあったが、その電球もすでに切れているのだろうか、蜘蛛の巣があちらこちらに張り巡され、電球は消えているのだった。
『それじゃ一緒に入りましょうか。よく考えりゃ、僕も霊力を送るのに、その方が都合がいいですから…』
 幽霊平林は、また賑やかになってそう云った。上山がドアをノックすると、中から声がした。紛(まぎ)れもない滑川(なめかわ)教授の声である。
「おお! 開いとるぞ。…誰だ! こんな夜分に」
「はい! どうもすいません。いつやらお邪魔した田丸工業の上山です。その節は…」
「ああ、上山なあ…。どの節かは分からんが、佃(つくだ)君のことを云っとるんだろう?」
「はいっ!」
「かまわん! 入れ! ドア越しに話されても聞こえにくいから、かなわん! このところ、耳が遠うなってのう」
 上山は慌ててドアを開けると入った。釣られて幽霊平林も続く。ただ、頭の青火は消せぬままだった。急に現れた上山に教授は一瞬、ギクッ! として驚いた。というより、上山の上方向に漂う青火に驚かされたと云った方がいいだろう。
「…まあ、座りなさい。…、しかし君、何か見えんか?」
「えっ? ああ…上の青火でしょ?」