水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

幽霊パッション 第二章 第八十回

                

『昨日より断続的に繰り返しているソマリアの宗教対立暴動は益々、その深刻さを増し、拡大の一途を辿っている。国連本部は緊急の常任理事会などの協議を開始した』
「ストップ! …要は、暴動が沈静化していないというこったな?」
『ええ、そのようですね。拡大しているんですから』
「ああ…、続けてくれ」
『はい。…軍部首脳は不介入の方針を、すでに表明していることから、政府は警察による治安維持部隊編成、衝突の起こっている地区に派遣の意向を固めた』
「ストップ! …軍部は不介入だと…。で、政府は警察の特殊部隊を送り込もうとしている訳だな…」
『そのようです…』
 上山はマジックを走らせて箇条書きで状況を纏(まと)め書いた。
「暴動の規模は、首都より全土に拡大する傾向にあり、と…」
『はい、そうです。読み続けますか?』
「いや、ちょっと休憩しよう…。少し喉が渇いた」
『でしたら、お茶でも淹(い)れましょうか?』
「ああ、そうしてくれ。えっ? …って、君、そんなこと出来んのか?」
『いや~、僕は出来ませんよ、課長。すべては、この如意の筆の力です』
 そういうと幽霊平林は両眼を閉じて軽く念じると、如意の筆を二度ばかり振った。すると、どうだろう。急須がテーブルを離れてプカリプカリと浮き上がり、給湯ポットの下へ静かに落下して置かれた。続いて急須の蓋(ふた)が、これもフワリフワリと外れ、ポットの湯が出始めた。そして、湯が止まると、浮いていた蓋が元のように閉じられ、急須は、ふたたびプカリプカリと浮いて湯呑みに近づいて茶を注ぎ始めた。上山は、その一部始終を茫然と眺めながら、如意の筆の壮大な霊力を感じるのだった。