
『本当は、こういう私的なことに使っちゃいけないのですが、今は仕事の打ち合わせ、…まあ仕事というとなんなんですが、活動中ですので、特別サービスです』
幽霊平林は陰気にニヤリと笑った。
注がれた茶を妙な気分で上山は半分ほど飲んだ。現実に起きている事実ながら、どうも上山には絵空事か夢を見ているとしか思えないのだ。確かに、急須が宙を漂って茶を淹(い)れる、などということは現代科学では否定される事象なのだし、もしそれを世間で語れば、気がふれた、狂ったと揶揄(やゆ)されるのは必定なのだ。しかし、現実にこうして淹れられた茶を啜っていると、やはり信じない訳にはいかない上山なのである。
「私には分からんが、君がその筆で念じれば、すべて思いどおりになるのか?」
『えっ? いや、それは分からないです。ただ、今までの経緯(いきさつ)で云えば、ほとんど思いどおりになっています。失敗といいますか、念じて成らなかった試しはないです』
「そうなのか。そりゃ、大いに期待が持てるぞ。規模や人数、事の大きさは関係なくなるからな」
『はあ。それは、まあ、そうです…』
幽霊平林はプカリプカリと漂いながら頷(うなず)いた。上山は茶を飲み終えて椅子を立つと、ツカツカと歩いて、ふたたび掲示板の前に立った。そして、自分の書いたマジックの箇条書を見ながら腕組みをした。
「現地では、すぺて君に念じてもらうしかないんだが、出来るだけ念じる内容をコンパクトに纏(まと)める必要があるな。何が起こるか分からんソマリアだから、手短(みじか)に念じて如意の筆を、ということだ」
『そうですね。アレもコレもでは、僕も困りますし、忘れてしまいます。だいいち、時間が、いりますし…』
「そういうことだ。この箇条書きにした文章を、もっと短く的(まと)を得て纏めよう」
『はい!』
「君も、私が纏める文章に気づくことがあったら云ってくれよ」
『分かりました』