水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

幽霊パッション 第三章 第三十四回

                

「食糧増産は飢餓に喘(あえ)ぐ民族の救いにもなるしな。ただ、地球に生存する人間すべての発想をそうするとなると難しいぜ」
『衣食住は人類に不可欠ですが、今は食が弱ってる時代ですしね』
「そうそう…。有る地域にはあるが、無い地域にはない。総じて、足らんな。世界人口は増加の一途を辿(たど)っているが、食糧自給率は各国とも低下傾向だそうだからな」
『まあ、如意の筆の荘厳な霊力なら、この程度のことは容易(たやす)いでしょうが…』
「そうだったな。霊界のお偉方がお認めなんだろうから、大丈夫だろう。どれ、念じる内容を纏(まと)めるとしようか」
『はい…』
 二人(一人と一霊)は、世界の産業構造の発想転換を大命題において考え始めた。その時、急に激しい震動が起こり、上山は立ち上がった。
「おい! 真っ暗になったぞ!! 君!」
『えっ!! どうしたんです、課長!』
 上山の眼前は、いつやらと同じように暗闇に閉ざされていた。震動は、すぐ止まったが、辺りは灰色の、色彩が消えた世界に変化していた。
『霊界の意志が、また示されたようです…』
 幽霊平林の声も、少し震えていた。興奮のためか、青火も頭上に蒼白くポワ~っと灯り、漂い方も、いつもの穏やかさは失われていた。
『そのとおりじゃ! お前達の考えは軽はずみで、いかん。霊界司様も、いたくお嘆(なげ)きのご様子じゃったぞ』
『いつぞやと同じく、やめよと?』
『そうじゃ。人間界が乱れることを、のめのめと看過出来ぬと仰せでな。この儂(わし)にお命じになったのよ』
 この声は幽霊平林には聞こえていたが、この前と同様、上山には、まったく何も聞こえていなかった。