2025-12-20から1日間の記事一覧
山盛研究室で飛行車の軽量化された車体組立が本格的に開始されたのは、秋が深まり朝晩の冷えが少し身に染みるようになった頃だった。「明日からシュラフ持参で研究室に泊り込むから、食事はいいぞ」『あら、そうなの? 何日ぐらい?』「数日だ。連絡するから…
『私の方もOKなんだけどね。ただタイミングが問題なのよね。急に消えるのは保にとってメンタル面で、かなりショックだと思うわけ。心配かけるからね。そちらだって同じじゃない?』『ええ…それはそうです。私も先生や里彩さんにショックを与えたくはないで…
「本当かよ」「嘘を言っても始まらん。現実に今だって動力式の一人用グライダーが飛んでるじゃないか。車が飛んでも怪(おか)しかないだろ?」「まあ、それはそうだが…。重い車が飛ぶとは、すぐには信じられんな」「ははは…。無論、軽量化してだ。それに飛…
『もちろん! そうと決まれば今、三井さんが言ったことが、すべてOKにならなきゃね。最低条件だからさ』『ホームレスで暮らすのも可能でしょうが、それにしたって私たち自身のメンテナンス、修理の機材は必要ですから運び込まねばなりません。それには諸費…
『心が荒(すさ)んでるのよね。自分さえよけりゃいいっていう人が割合的に増加しているのは確かよね。ちゃんと、データが出てるもん』『はい、確かに…』『そういう人間がいるかぎり、社会はよくならないわよ。そんな人が世の中を悪くしていってるのよ。今で…
機体は順調にグラウンド上空を旋回しながら10分ばかり飛んだあと、ふたたび保達の近くへ無事、軟着陸した。「飛行はとりあえず、これでOKのようです。今後は緊急時の安全性ですね」「そうだね。耐熱性の安全バルーンが緊急時に膨らみ、機体が浮上を維持…
一時間が経過し、山盛研究室の四人は、かつて自動補足機の実験走行で訪れた国立競技場の回廊に来ていた。ただ、今日の場合は、回廊走路での実験ではなく、外部グラウンドを貸し切っての実験だった。山盛教授が午前中、マスコミなどの部外者を立ち入らせない…
「そうよね…。たぶん六分四分で沙耶さんが有利なんじゃないかしら」「ほう。お前もそう思うか。わしもな、最近、そう思えるようになったんじゃ。保の飛行車の発想は、わしの及ぶところではないからのう…」「うん、確かに…。三井は少し言語システムが硬いしね…
「成功、不成功、いずれにせよ、すごいことじゃ。あの研究室は、どこか、わしらと似通って世離れしとるなあ。そうは思わんか。三井よ」『仰せのとおりでございましょう。私をお作りになられた先生も世間に隔離されたご研究でマスコミ公表はなされませんから…
速度も当然、猛スピードで、図書館司書は初めて見た生物のように沙耶の姿を追った。小一時間が経過し、沙耶はほぼ立ち読みを終えようとしていた。すべての本は沙耶の記憶回路へインプットされ、処理を終えていた。図書館を平然と出ていく沙耶を図書館司書を…
その後、順調に組立は進んでいったのだが、設計の大半は実際のところ沙耶がキャド(コンピュータ設計支援ツール)で図面化したものだった。それを保が三人にアドバイスをし、設計図面を完成させたのである。 その頃、沙耶はマンション近くのブックストアで手…
山盛研究所では、保が発案した飛行車の本格的な設計が始まっていた。自動補足機と同様、各パーツごとに三人が受け持つ形で進められたが、自動補足機の製作工程と違ったのは、山盛教授も設計に加わったことである。だから、実質的には設計も四人になったとい…
『そうよね。じゃあ、ご無事でね』『沙耶さんも…』 人間の会話とは異なり、笑声なく携帯は切れた。これが保達人間とアンドロイドの沙耶、三井が別離する最初の連絡となった。無論そのことを保長左衛門達は知らなかった。 月日は巡り、猛暑の夏もようやく沈静…
やがてタクシーは三人? を乗せて去り、その夜は更けていった。 沙耶が三井に連絡を入れたのは、打ち合わせのとおり二日後であった。その前日の夜に長左衛門達は田舎へ戻っていた。人間には疲れがあり、長左衛門も里彩もその例に漏れなかったが、アンドロイ…
『そんなに、お褒めいただきますと、恐縮しますわ』 言語システムの謙遜を選び、沙耶は下手に出た。ただ少し、笑いが、ぎこちない。保は、逆に自慢っぽく見えるぞ…沙耶の言い方を心配したが、幸いにも長左衛門は沙耶を見ていなかった。 二人が食事を終え、ひ…
『あらっ?! 里彩ちゃんどうしたの?』「お腹がすいたの…」『そう…』「何か作ってやってくれよ」 保が付け加えてそう言った。「ははは・・・すまんが、わしも些(いささ)か、ひもじくてのう。沙耶さん、ひとつ頼もうか…」『里彩ちゃんは分かるとして、和食…
『明後日(あさって)の正午でございますね。先生のお住まいになられる離れの電話番号は、こちらでございます』 三井は長左衛門の名刺を沙耶へ手渡した。『了解!』 沙耶の言葉を合図に三井は椅子を立ち、事も無げに和室へと戻った。「おお! 三井。沙耶さん…
『物権…。人間と同じように自由に生存できる権利、ってこと?』『そうです…』『でも、私達は自分でメンテナンスとか故障の修理とか出来ないじゃない』『そこなんですよ、沙耶さん。私達は私達で修理したりするんです。修理技術とかの知識を身につけるのは人…
出かけるとき、里彩に口止めするのを、ついうっかり忘れていたことに気づいたのだ。「じいちゃん、そうなのか?」「おっ? おお、まあそうじゃ」「すごいじゃんか。まだ腕は健在なんだな」「ははは…もう昔ほどではないがのう。それより保、沙耶さんも、じゃ…
保と長左衛門の思惑は大きく外れ、結果としてアンドロイド同士を固い絆で結びつける破目になってしまった。二人はそんなことになっていようとは露ほども知らず、話を続けていた。「はっはっはっはっ…、そうか。では、そのように勝夫婦には言っておこう。いい…