保のパーツは、実はすでに完成していたのだ。だが、沙耶を秘蔵している保にとって、余り早く研究室のメカを完成されるのは困る。理由は多忙になる・・という、この一点に尽きた。多忙になれば、ようやく実用段階に達した沙耶の郊外試験に支障が出る恐れがあった。それで敢(あ)えて、自分のパーツは完成していない態にしていたのだ。幸い、後藤は実際にトラブル続きで、ミスが多発していたから、保としては助けられた格好だった。教授はそんな後藤に付きっきりで、首ばっかり捻っている。その二人の姿を横目に、合わせるかのように保も、「妙だな…?」と首を捻って、ひと芝居打つ。その三人を見ながら但馬が、したり顔でマグカップのコーヒーを啜る…これが研究室内の今の構図である。積極的な但馬の持ち場は自動補足機のスピード交換パーツである。使用感を損ねず、利用者の意のままに動かなければならないから、そのプログラム調整が至難の業(わざ)だった。それをなんとか熟(こな)したから但馬は、したり顔だったのだ。保の持ち場は、利用者が靴履きの足を機械に挿入したときヤンワリと締めつけ、それでいて余りムレなくする適度で微妙な機能を加味することだった。夏場は足を冷やす冷却効果を必要とするし、逆に極寒の冬場は適度に足を温める暖房効果を考慮に入れねばならないのだが、その保のパーツは完璧に完成していた。それを、首を捻る演技で誤魔化しているのだった。自分でも芸能方面の才があるんじゃないか…と苦笑することも間々あった。