『いいけど。…どこへ行くの?』
「いやあー、これという所はないんだ。軽く散歩気分で食材なんかの買い物でもさ」
『ワッ! 最高! 嬉しいわ、お買い物できるなんて…。少しさ、息が詰まってたのよ、実は!』
沙耶は素直に感激して喜色を満面にした。この受け答えなら完璧だ…と、保は思った。外出するには何の問題もなさそうだった。ということは、修正プログラムの必要がない、ということになる。プログラムをなまじっか弄(いじ)って、順調に作動しているアンドロイド機能を損なう恐れもあった。人間らしい沙耶の喜ぶ表情を見ながら、保は箸を手にした。
「美味いよ、沙耶…」
『そう? よかった。他にすることなかったら、しばらく止まってるけど、いいかしら?』
「ああ、いいよ…。また呼ぶから」
保は、この会話は人間的じゃないが、仕方ないか…と、思いながら、そう返した。沙耶は岸田2号のような部屋の片隅ではなく、保が座る対面椅子へ静かに座った。そして、両眼を閉じると、瞑想するかのように氷結して動かなくなった。