宮大工の棟梁は柏手(かしわで)という何とも神社に縁がありそうな苗字の男で、年恰好は岩口とほぼ同年齢だった。聞くところによれば、先代の跡を継いで数年が経ったらしい。
「はあ、工事は月曜からかからせて頂きます。出来るだけ静かにやらせて頂きますので…」
「態々(わざわざ)、どうも…。あのいつ頃終わるご予定でしょう?」
「下見させて頂いたところ、少し漏れの部分があるだけでしたので、週末には終わると存じます…」
「お手数をおかけしますが、宜しくお願い致します。当方がすることは?」
「いや、これといってございませんので…」
「そうですか…」
柏手はペコリと頭を下げ挨拶すると、岩口の玄関から出ていった。岩口の家は骨太(ほねぶと)神社の境内内だから、拝殿とは目と鼻の先だった。
修繕工事が始まり、工事用の車が裏の通用門から神社へ入ったのは月曜の朝だった。岩口はすでに町役場へ出勤しており不在だったが、電話連絡が町役場にあった。
『これから、かかりますんで…』
「宜しくお願い致します…」
それだけの電話の遣り取りだったのは、工事の大方を氏子総代の切川が仕切っていたからだった。神様[紙]のお住まいの修理を切川クリニックの切川[鋏]が任されるというのも、三竦(さんすく)みの構図とすれば、妙といえば妙だな…と、岩口には思えていた。^^
続