馬飼(まがい)商店まで20分程度で行けることは、おおよそ見当がつく。保は最も近いルートを頭に描いて動いた。
地下鉄を乗り継いで保が馬飼(まがい)商店へやってきたとき、丁度、中林が店前にいた。
「おう、どうした? 珍しいな、こんな時間に…」
「いや、なに…。沙耶の関係でな」
中林だけがアンドロイド沙耶のことを知る唯一の人間だったから、ダムに蓄えられた水が一気に下流へ放水され、落差を霧状に砕け落ちるかのように、保は鬱積した想いを中林へぶつけた。
「とにかく、沙耶の性能なんだ、中林! 分かるなっ!」
中林は保の勢いに押されて口籠(ごも)った。
「あ、ああ! …よく分からんが?」
「よく分からんか。そりゃ、お前には分からんだろう」
「まったく、分からん。上手くいってないのか?」
「いや、その逆だ。完璧に上手くいってる」
「なら、いいじゃないか」
「それがよくない。完璧すぎる沙耶を俺一人で独占してるんだぜ!」
「そりゃ、そうだろう。お前が作ったんだから…」
「それでいいのか?」
「なにが? …まあ店先で立ち話もなんだ。中へ入れよ」
中林にそう言われ、つい興奮して話している自分に気づき、保は我に帰った。