「そうだったか…。日本男児はまだ健在だ、と思ったよ、ははは…」
「いやあ~、お恥ずかしい限りです」
「なに言ってる、岸田君。自慢しなさい!」
「はあ…」
教授に持ち上げられては、保も、あれは怪獣で・・の下りは語れず、聞き流すしかなかった。
それにしても、怪獣長左衛門が保の身辺に迫っているのは紛(まぎ)れもない事実だった。それも手下の里彩(りさ)まで連れて、この東京の一角で虎視眈々と(こしたんたん)と爪を研(と)いでいるのだ。恐らくは今夜辺りマンションへ上陸し、保をいたぶる手立てを講じているのではあるまいか…。保は益々、不安感に苛(さいな)まれていった。
この日の研究所は自動補足機の細部に至る詳細な詰めをする大事な局面だったのだが、保は仕事にならなかった。保は早退を決め、四時過ぎ、教授に申し出た。
「ああいいよ、そうしなさい。いつ寄られるか分からんだろうしな…」
定時より一時間以上、早かったが、教授の同意を得て、保は研究所を出た。帰途は何も考えられず、ただ地下鉄に揺られるだけだった。幸いにも座れたので、保はずっと目を閉ざしていた。だが、気分が昂(たかぶ)り、眠くはならなかった。
『あらっ! 早かったわね』
いつもの妻風の言葉が沙耶の口から出た。言葉と同時にドアチェーンが外された。保は中へ入りながら言った。
「早く帰らせてもらったんだ、来襲の前にな、ははは…」
保から思わず笑みが零(こぼ)れた。