枉神(まがかみ)の目論見は甘かった。天常立(あめのとこたちの)神が神幣(かみぬさ)に与えられた呪文は枉神の枉事(まがごと)を、ことごとく消し去ったのである。そのことに枉神や新任の枉命(まがみこと)は気づいていなかった。
『そろそろ岩口さんの生活に狂いが生まれる頃だが…』
枉命は健康福祉課の課内で岩口の様子を探り続けた。ところが、である。どうも様子が怪(おか)しいのである。
『んっ!? 今朝は妙に職員の様子が明るいぞ…』
枉命は職場の雰囲気がいつもと違うことに気づいた。それもそのはずで、天常立神の神幣に与えた呪文が効果を出し始めたのである。
「課長、おはようございますっ!」
「? …ああ、おはようございます」
岩口が課内へ入ったとき、すでに課長補佐の鉄棒が出勤していて、岩口を迎えた。
「今朝は随分、早いですね…」
訝(いぶか)しげに岩口が鉄棒を窺った。
「えっ!? ああ、まあ…。今朝は気分がいいんですよ。朝、早く目覚めましてね。僕にしては珍しいんですが…」
「そうでしたか、それはなによりです…」
岩口は、まあそういう日もあるだろう…と、このときは深く考えなかった。
続