課長補佐の鉄棒に課内の現状を説明された岩口だったが、新任課長としてともかく職場に慣れなければならなかった。さらに、健康福祉課の仕事は白紙状態で、これも覚えねばならない。岩口の日常生活は、異動前の三月までと異なり、負担が大きく増えようとしていた。こうした状況は、岩口を探っている枉命(まがみこと)としては気分の悪かろうはずがなかった。
『フフフ…この調子なら、枉神(まがかみ)様の仰せになったように、岩口さんの生活に綻(ほころ)びが出るのも時間の問題だな…』
岩口の生活に綻びが生ずれば、自ずと隙(すき)も生れるというものである。枉神の狙いはそれで、出来た隙に乗じて岩口を中心に回っている平穏な三竦みの状況を一気に崩す・・というものだった。だが、枉神に命じられて岩口を探る枉命だったが、自身が神の鳥に見張られていることには気づいていなかった。
『前の枉命よりは、かなり腕が立つようじゃ。だが、少し図に乗っておるな…』
神の鳥は新しい枉命の実力は認めたものの、このままには捨て置けぬ…と判断した。
『神の鳥でございます。どうぞ…』
神の鳥はテレパシーを天常立(あめのとこたちの)神に送った。
『おお、待っておったぞよ。どうじゃ、その後の枉神達の動きは?』
『それが、大きく変化しまして、このままでは岩口さんの日常生活に大きな歪(ひず)みが生ずる恐れがあります。どうぞ…』
『なんじゃと!? 少し油断しておったのが拙(まず)かったかのう…』
天常立神は自らの手抜かりを反省された。
『まあいい…』
天常立神は両眼を閉じられると、新たな呪文を神幣(かみぬさ)に与えられた。神の鳥が嘴(くちばし)に銜(くわ)えた神幣はふたたび違った色彩で光り輝き始めた。
続