その後、しばらくの間、黒原に枉命(まがみこと)からのテレパシーの音信は途絶えた。枉命も枉神(まがかみ)に注意を喚起(かんき)されたことにより、神々の察知を避けるためにコトを急がなかったからである。
岩口の周辺にはコレといった勤務の波風も立たず時が巡り、骨太神社の例大祭も滞りなく過ぎていった。
そんなある日の昼近い頃のことである。
「岩口さん、おはようございます…」
岩口家を訪(おとな)ったのは氏子総代の切川だった。診察中のクリニックを抜け出してきたのか白衣姿だった。
「…どうされました?」
土曜のことで岩口は家にいた。
「実は、骨太(ほねぶと)神社の神具を新調したいのですが…」
「はあ、そんなことでしたらお聞きしましょう。まあ、立ち話もなんですから…」
岩口は上へ上がるよう切川に勧めた。
「いや、時間休診にして抜けて来ましたので…」
「そうですか…。で、どういったものを?」
岩口は新調したい具体的な神具名を切川に訊ねた。
「はあ、三方(さんぼう)を二十ばかり…」
「でしたら、この前、拝殿の屋根を修理して戴いた宮大工の柏手(かしわで)さんにでもお願いしましょう」
岩口は骨太神社がいつも世話になっている柏手を名指しした。
続