「ああ、別に…」
「駅の中の出店ですか?」
「えっ?! ああ、まあ…」
これ以上、訊(き)いては拙(まず)い…と坪倉は思い、適当に暈(ぼか)した。
「そういや、最近、出店が変わりましたよね。あそこの日替わり弁当、美味(うま)いんで好きです」
「そうだな、ははは…」
坪倉は笑いで誤魔化(ごまか)した。
「さあ、急ぎましょう! 今日は早朝会議があります、課長」
「ああ…」
目の前に映る景色は、どう考えても夢としか思えない。坪倉はそれでも部下の底村の手前、凍りついた両足を緩慢(かんまん)に動かし始めた。
駅自体が変わったということではない。昨日まで数百m先には、この光景があったのだ。ただ、今朝はそれが家の前に移動していた・・ただ、それだけのことなのである。坪倉には駅構内に入っても、自分の視覚が信じられなかった。改札を抜けホームへ入ると、不思議なことにいつもの街並みが見えた。怪(おか)しい? と坪倉は思った。家の前に駅があるのだから、科学的な常識で考えれば、駅ホームからは坪倉家の景観が望めるはずなのだ。しかしそれが、まったく見えなかったのである。
続