その後もタレント猫としての多忙な日々が小次郎に続いた。今日は休みたいな…と小次郎は思うときもあったが、マネージャーの里山に迷惑がかかるといけない…と思え、思うに留めた。問題は里山自身に起こりつつあった。テレビ収録が増え、余りに会社勤めを休む里山に、沙希代が不審を抱いたのだ。日々、通勤する態で家は出ていたものの、すでに里山は会社を退職していたが、沙希代はそのことを知らなかった。そのことは話さないまま、今までと同じように、月々のものは沙希代へきっちりと渡していた。幸い、今までは給料を手渡すだけで、明細は見せずにいたから、なんとか沙希代を誤魔化せていた。沙希代も手芸教室の収入があったから、そう気にしていなかった。
『かなり危ういですよ、ご主人』
「そろそろ、話そうかと思ってるんだ」
『僕もその方がいいと思いますよ…』
木枯らしが吹き始めた日の朝、里山と小次郎はテレビ局のロビーで、そんな会話をしていた。というのも、その朝、沙希代に「会社は大丈夫なの? そんなに休んで…」と訊(き)かれたからだった。
里山が会社を辞めたことを沙希代に話したのはその晩だった。
「…まあ、そういうことだ」
「そんなこと、知ってたわよ」
沙希代は小笑いして返した。不審に思えたその日、沙希代は会社へ電話し、全てを知ったのである。里山はそうとも知らず、ひと月が過ぎてた。なんだ、そうだったか…と、里山は気づかなかった自分が馬鹿に思えた。いつやらの準備策③家では異動話を内緒にし…以降の算段は、もう必要なかったのである。