『今日でしたか…』
小次郎は落ちつき払って大きな口を開けた。そして、前足の片方で顔を拭(ふ)く素振りを見せながら小声で言った。そこはそれ、小次郎には沙希代が見えているから、抜かりがなかった。
「頼んだぞ…」
里山はカメラを小次郎に向けたあと、多くを言わなかった。賢明な小次郎の演技力にかけたのである。小次郎は小さく頷(うんなず)くと、チョコチョコとテレビ番組を観ている沙希代の方へ近づいていった。当然、里山も小次郎の動きに合わせ小次郎の姿を追って動いた。そして、ついにそのときがやってきた。
『おはようございます!』
「えっ! …」
沙希代はビクッ! っと驚き、テレビ画面の視線を小次郎へと移(うつ)した。その一部始終を里山は撮影している。
「あなたっ! 今、なにか聞こえたわよ!」
「そら、そうだろう。小次郎が話したんだよ」
「ええ~~っ!! 猫が話す? …」
沙希代は目を閉じて長椅子の背に凭(もた)れかかった。
「おいっ! 大丈夫か!?」
里山はカメラを止め、沙希代に呼びかけた。沙希代は朧(おぼろ)げに瞼(まぶた)を開けた。