水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

幽霊パッション 第二章 第六回

                

 暗さのため、はっきり門と断定は出来ないものの、目を凝らせば寺の入口であることだけは佇(たたず)まいではっきりと分かった。寺の庫裏(くり)を目指して上山は入っていった。
「でっかい寺だなあ。…ああ、向うに灯りが見えるぞ…」
 幽霊平林に云うではなく上山は呟(つぶや)いた。
『そうですね…』
「悪いが君、前を行ってくれ。頭の青火が上手い具合に灯りがわりになっていい…」
『ははは…、こりゃ、すっかり課長に利用されちゃったなあ』
 幽霊平林は頭上に蒼白い光を放って陰気に笑った。
 灯りが射す方向へ近づくと、やはりそこは庫裏だった。灯りが射していたのは勝手口で、玄関の灯りは消えていた。
「じゃあ、適当に君は入って見ていてくれ。頭の青火は消してな。ややこしくなるから、声は掛けないぜ」
『はい。僕も記憶に話の内容はメモっときます』
「君は田丸工業のキャリア組だったからなあ…。まっ! それくらいは軽いだろう」
『ははは…、そんな大したことはないですよ』
 幽霊平林は上山におだてられ、マンザラでもない気分だった。チャイムのボタンを押した後、勝手口の戸を上山が少し柔らかめに叩くと、中からすぐ声が返ってきた。
「はい、どちらです?」
 そうは若くないと思える中年女の声がし、足音とともに戸が開かれた。
「…あっ! どうも。こんな夜分に恐れ入ります」
「…はい、どちら様でございましょう?」
 怪訝(けげん)な表情の女に、上山は昼間に訪ねるべきだったか…と、いささか後悔した。そして、その気持が言葉になった。