「まあ、今日のことはなかったことにしよう。研究室の連中には、あとから電話しとくよ」
『今、した方がいいわよ。今後のこともあるし…』
「そうか・・そうだな」
保が主客逆転で素直に従った。沙耶のプログラムからすれば、100%の確率で間違ったことは言ってない・・と思えたからだ。携帯を握って山盛(やまもり)教授に沙耶が元気になったと伝え、保はすぐ切った。長引かせて、つまらないことを研究室の連中にあれこれ穿鑿(せんさく)されるのが嫌だったからだ。
「沙耶、悪いが腹が減った。何か作ってくれ。朝から何も食べていない」
保は修正と新プログラミングで昼食をすっかり忘れていた。
『はいっ!』
いい返事で素直に頷(うなず)くと、沙耶は動き始めた。保も沙耶の後ろについて部屋を出た。今日は何もしたくない。美味い料理に冷えた酒…これに尽きるなあ…と、保はしみじみ思った。沙耶が少し前に口にした『少し疲れたみたい』は、人が言う疲れではないが、俺は本当に疲れてるぞ、と保はまた思いながらキッチンテーブルへと座った。沙耶が調理した料理は期待した通りの出来で、保は完璧に満足した。沙耶にこれ以上、望むのは少し酷なような気がして、簡単な雑事は保自身で動き、その日が暮れていった。