水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

代役アンドロイド -213-

「なんじゃ、食事は、なされんのか?」
『はい。今、お医者様に止められてますから…』
「ああ、左様か。ではのう…」
 得心した長左衛門は軽く頷くと遠退いた。保は、危ねえ危ねえ! と、冷や汗を流した。保達が大テーブルを囲んでいる頃、沙耶は一冊、10~15分ペースで片っ端から本を読破していた。それもただ読むのではなく、すべてデータ化して集積し、記憶メモリー回路で保存しているのだった。通りがかった家政婦のトメはその場を垣間(かいま)見て唖然とした。トメはしばらく氷結したように眺めていたが、怖くなったのか、急いで駆け去った。
『あらっ! あなたは?』
『私は書生の三井といいます。そちらこそ、どなたです?』
 まだ大テーブルを囲んで賑やかな食事が続けられていた。そのとき、書棚前では異変が起きていた。長左衛門が停止させていた隠れ部屋の三井が勝手に起動し、離れから母屋へと移動していたのである。もちろん、そんなことになっているとは長左衛門も手下の里彩も、まったく知らなかった。
『私? 私は保さんの友人の従兄妹(いとこ)ですよ』
『ははは…、ややこしいご関係なんですね』
『ちっとも、ややこしくなくってよ!』
 沙耶は怒っている訳ではなかった。感情システムと言語認識システムを駆使していた。