水本爽涼 歳時記

日本の四季をベースにした小説、脚本、エッセイetc.の小部屋です 

里山家横の公園にいた捨て猫<始動編> -19-

「お前、どう思う?」
「ははは…猫が人の言葉を、ですか? 課長。…なんか、メルヘンだな」
 課長補佐の道坂は大笑いした。定食屋、酢蛸の店内だったから、客が思わず振り向いて道坂を見た。
「いや、なに。うちの猫が話しゃ面白いなと、ふと思っただけさ…」
 里山はバツ悪く、言葉を濁し、杯(さかずき)の酒を飲み干(ほ)した。
 一日が過ぎ、里山は大ごとにするまでの決断は出来ないでいた。やはり、ニャ~ニャ~で撮るしかないか…と思った次の日の昼だった。ひょんなことで、里山の決断を後押しする事態が発生したのである。
 里山は部長室へ呼ばれていた。
「実は、支社への出向をね。もちろん、早期退職でも構わんのだがね…」
 部長の蘇我は、柔和(にゅうわ)な目つきで厳(きび)しい言葉を里山に浴びせた。
「はあ、考えてみます…」
「うん、そうしてくれ。急がんから、ひと月以内で返答を頼むよ」
「分かりました…」
 里山は肩を幾らか落として部長室をあとにした。
 昼休み、里山は定食屋、酢蛸(すだこ)で定食を食べていた。向かいの席には課長補佐の道坂と係長の田坂がいた。
「酷(ひどい)いですね、それは…」  
「そうですよ、課長。課長が何をしたって言うんです? …まあ、実績は確かに落ちてますが」
 道坂が怒り顔で言ったあと、田坂がつけ加えた。