「そんな…。ありっこないでしょ、あなた!」
『ええ、ご主人の言われるとおりですよ、奥さん』
沙希代はふたたび目を閉じ、気を失った。
そして、しばらく時が流れた。十分ばかりが経っていた。沙希代は目を擦(こす)りながら背筋を伸ばし、辺(あた)りを見回した。里山はそんな沙希代を注視した。里山の横には小次郎がきっちりと正座していた。猫が正座する姿勢とは、皆さんもご存知かと思うが、凛々(りり)しく両前足を揃(そろ)えて腰を下ろし、背を伸ばした姿で尻尾を前へと回して身体に巻きつける・・という例の姿だ。
「… 変な夢見たわ、あなた」
沙希代は、まだ小次郎が語ったという現実を事実として認識していなかった。
「小次郎のことか?」
「ええ、そう…。小次郎が話したの」
「ああ、そうだ。小次郎は話す。それは夢じゃない」
「ええっ! そんな…」
沙希代は言葉を失った。小次郎は、これ以上、奥さんにショックを与えるのは、いかがなものか…と即断し、ニャ~~と猫語で鳴いた。この場合のニャ~~は、そうですよ・・くらいの軽い意味である。