「お初にお目にかかります、岸田です。あとの連中は同じ研究室の者で…」
「私、研究室の山盛と申します」
教授は背広の内ポケットから名刺入れを出し、その中の一枚を室川の姪に渡した。
「わあ! 大学の先生ですの?! 私、みどりと申します、ご贔屓(ひいき)に!」
愛想よく、みどりが言った。
「客足らいが馴れておられますね!」
但馬が教授の横から補うように言う。
「ははは…こいつは斜め向うのスナックのママやってますから」
室川が事情を説明した。
「なんだ! 道理で…」
但馬は言ったあとジョッキを手にし、山盛教授は無言で頷いた。後藤は一人だけ浮いた形で、飲み食いを繰り返していた。彼はまったく他の者の話には興味を示さず、自分のペースを守っていた。突き出しは相変わらず鳥笹身の味噌漬け焼きで美味だった。店の突き出しが昔とちっとも変わらないことに何故か心の安らぎを覚える保だったが、後藤のように味あわず腹へ詰め込む食いっぷりには無性に腹が立った。
小一時間が瞬く間に流れ、散会となった。店からは各自で帰る・・とは、暗黙の決め事になっているようだった。
「有難うございました!」「また、お越しを!」
天宮が教授から金を受け取り礼を言うと、室川が続いた。四人は一人ずつ暖簾を上げ外へ出た。