砂場に言われたからではないが、岩口の足は切川クリニックに向かっていた。
「どうされました?」
切川クリニックの診察室である。突然の岩口の来院に驚いたのか、訝(いぶか)しげに切川が訊ねた。氏子総代の紋付き袴(はかま)姿と違い、白衣の切川はまた趣(おもむき)を異にしていた。出来の悪い医者でも白衣を身に付ければ、それなりに名医に見えるから不思議だ。とはいえ、岩口が切川をけっして出来の悪い医者だと思っていた訳ではない。
「最近、どうも身体がだるいんです…」
切川は診察を始めた。
「あとで血液検査をしていただきますが、…たぶん疲れからくるものかと思われます」
「砂場君が一度、診てもらったらどうかと言ったもんで…」
「ああ、砂場さんですか。外氏子に入られましたね。後ろを向いて下さい…」
切川は慣れた手つきで聴診器を岩口の背に当てた。
「やはり、疲れが溜まっているようですね。疲労回復のお薬を出しておきましょう。そろそろサプリメントをされるお年ですかね」
岩口は切川の言葉を聞いて、大きなお世話だ…と一瞬、思ったが、軽く受け流した。相手は医者であると同時に、世話になっている氏子総代でもあったからだ。
「ところで、切川先生に一つ、聞いてもらいたいことがあるんですが…」
岩口は、どこの馬の骨かも分からない[潜入部隊かも知れない]人物を亡き父の式年祭に招いているトラウマを話そうとした。切川なら同じ鋏だから、紙[神]を切ろうとする人物のことなら分かるだろう…と解釈したからである。^^
「都合がつく日にお聞きしましょう…」
「お願いします…」
胸の閊(つか)えが取れたのか、岩口は少し元気を取り戻した。
続